①魂重ね

序章

真っ暗な闇の中で一人、オニを待っている。
遠目から女に見えるように、女物の唐衣を被って、少し紅を差して、笛を奏でてオニを呼び寄せる。

そこに現れた、細身の少年とも青年ともつかない、美貌の主がオニ。
俺は、そいつの手を掴んで、引き寄せて、口を吸って…
懐に手を入れて…首を強く吸って、所有の印をつけた。

「痛ぁい…んんっあっ…」




(KC)
都に、夜な夜なオニが出る。
「お上かみに恨みを持つ…」と言うそのオニは、男でも女でも、その美貌でたぶらかし、魂を食って捨てる…という噂が広まっていた。
先日は殿上人てんじょうびとの岩橋中将いわはしのちゅうじょうがその犠牲にあったとも言われている。
このままではお上の御名に傷がつくから…と、お上の使者から御所の清涼殿へ呼び出された。

清涼殿の一室で控えていると、しずしずとやってくるお上。
面を上げるように言われる。
御簾みす越しでもわかる、薫きしめられたお香の香りと、輝かしいお上の美貌。
イケメンですよね、相変わらず。

「岸宮きしのみや、噂のオニを退治て欲しい。ただ…苦しまぬ様に」

おもむろに発せられるお上からの勅命。
退治て欲しいだけならわかるけど、苦しまぬ様にってなんだよ。
パシッとお上が扇を打った。

「岸宮以外は下がれ」

お上が人払いをして、二人きりになった。

「恐れながら、お上。苦しまぬように…とは?」

「紫耀でいいよ、岸くん。面倒だし普通に話して」

昔、お上が紫耀宮しようのみやや東宮と呼ばれていた頃は一緒に遊んだりしていた。
同じ父宮から生を受けたとはいえ、今は立場が違うんで敬語使ってやったのに…。
とはいえ、向こうから紫耀と呼べと言われたら仕方ない。

「紫耀…オニとなんらかの縁えにしがあんの?」

「岸くん、オニの容貌を聞いてさ、実は覚えがある」

覚えがあるって…平たく言えばヤッたってことダロ?
全く。

「いつ、どこで、誰だソイツ」

思わず口調が普通を通り越して、子供の頃の昔に戻ってしまう。
御簾を片手でガバッと持ち上げた紫耀がこちらに出て来た。
段差にどかっと腰掛ける紫耀には、さっきまでの雅さのかけらもない。
一緒に遊んでいた子供の頃のまま。

「まだ東宮だった頃にお忍びで吉野に桜を見に行って、その時に泊まった寺にそれは美しい稚児ちごがいて…ついうっかり」

「…」

うっかり。あーこいつ、やりがち。迂闊。

「一夜だけ契ちぎった」

「…何か、約束したの?その子と」

「いずれ、迎えに行くって…そりゃ、言うよね。こっちはヤリたいもの」

紫耀が悪びれなく言って、遠い目をした。
なんてヤツ。
いつものこととはいえ…鄙ひなびた田舎の稚児が、こんな綺麗な殿上人を見たら、迎えに来るって言われたら、そりゃコロッとくるか。

「お前、死ねよ…まあ、ありがちよな」

「一応、俺、ミカドな?死ねとか言うなよ」

紫耀がムッとした顔をする。
こっちはお前の尻拭いすんだよ…。
ムカつくのは俺の方!ああ腹が立つ。

「うっせーよ。で、その稚児、どうした」

「なんか、恋患って死んだって」

「うわー…可哀想に…オマエなんかに…」

「あの子が、そのオニになったと思うんだよね…俺のとこに来てくれればオニでも可愛がってあげるんだけどさ。まあ来ないわ」

御所に入れるほどの力はないオニか。
あるいは、こんな奴でもまだ好きか…。

「ホント、クッソだなお前。ま、いいわ。わかったよ。髪の毛を一房よこせ」

その場で紫耀が冠を外し、短刀で先の方の髪を少し髪を切って、懐紙に入れたものを手渡してきた。
それを懐に入れた。

「次の新月に、そのオニを呼ぶ。そこで始末つける」

「頼んだよ…くれぐれも手荒にしないであげて。ホント、綺麗な子だった」

「じゃあな!」

紫耀の言葉は、もう無視。
もう、俺に用はないだろ。
すっくと立ち上がると「ねえ」と紫耀が声をかけてきた。

「また遊びに来てよ、岸くん。今度は久しぶりに笛を聞かせて」

紫耀の顔を見ると、なかなか疲れた顔をしている。
いくら生まれながらの『帝』とは言え、お上稼業も政まつりごとも楽じゃないわな。
ニコッと笑った紫耀は御簾の向こうに戻っていった。

「わかった。全部終わったら笛持って、また来るよ」

そう言って俺は部屋を出た。



お上…紫耀は、幼名は紫耀宮と言って、系譜的には俺の弟宮にあたるけど、バリバリ藤原さん家の女御から生まれている。
爺さんが摂政、今は太政大臣で後ろ盾もバッチリのザ・東宮って血筋だった。

俺の母上は、ただの女官だったのに先代のお上のお手つきになった。たった一度だけで見事に懐妊して俺が生まれた。
皇子とはいえ後ろ盾がなければ、なかなかに生きづらい平安の世。

お上のお手が付いてるにも関わらず、なぜか紫耀の母上の女御様に気に入られていた俺の母上は、紫耀の乳人めのととして迎えられて仕えていた。
その縁から俺も紫耀に気に入られて、遊び仲間として一緒に育てられた。

お陰様で臣下に降下することなく独立した官家を持たせてもらえて、龍笛と舞いと歌を…あちこちで披露したり教えたりして、ふらふらと暮らしている。

その傍らで母上から引き継いだ、オニや妖あやかしの類を視て、操る力…母方の実家の神宮寺家は京の都でも有力な神社の神職を務める家系で、その力が強く出た俺は、時折陰陽師の真似事をしてオニとか妖とか悪霊とかをやっつけるのを頼まれたりもする。



御所からの帰り、牛車に揺られながら「そうだ」と思い立つ。
お付きの人に「ねえ、神宮寺んとこ寄って」と声をかけた。



「あれー岸宮様、お久しぶり!」

神社の車止めに牛車を止めて、車から降りて境内へ入ると、落ち葉を掃除していた従兄弟で、今の神職を務める神宮寺家の当主と出くわして、ヤツが声をかけて来た。神宮寺と一緒に境内を歩く。

「よう、ちょっと吉野にある寺のこと、教えて欲しいんだけど」

「…うち、寺って名前ついてるけど、神社だよ?」

「でもお前、寺も詳しいだろ?」

「そうだけどさ…」

まあ入りなよと、神宮寺に案内されて境内の奥にある邸宅に上がった。
母上の縁から知り合ったのは大分大人になってからだったけれど、年が近いこともあって神宮寺は気楽に話ができる。

そこでここ数年で、吉野の寺で死んだ稚児がいないか?という話を聞いてみた。

「ああ、何か、鄙びた吉野には相応しくないくらい、垢抜けてて綺麗な稚児がいたって噂になってたな。
なんでも…先のお上の忘れ形見では?って。

遅くにできた皇子だったのと、いまのお上の母上の当時の女御様がエラくお怒りで、そのお手つき女官が遠慮して逃げるように吉野に引っ込んだって。

あ、そうすると、岸宮様の弟宮に当たるのか?
まあ、先のお上は…いろいろね」

「マジ…」

あのオッさんはいい人だったけど…ホント下半身はダラシなかった。
おかげで俺も名前を知らない弟宮がたくさんいたりする…。

「でも寺に手習いとかに来てたくらいで、本物の稚児じゃなかったって。あちこちでチヤホヤ可愛いがられてたらしいよ。

で、その子がある日を境に大人しくなって、ご飯も喉を通らなくなって…なんか病気なのか知らないけど死んじゃったってさ。
三年くらい前かな?」

まだ、紫耀が東宮だった頃だ。辻褄が合う。

「名前わかる?」

「えーと…そのお手付き女官は『永瀬』って名前だったな。綺麗な女官って噂だったよ。その綺麗な子は…ちょっと待って」

神宮寺が奥の部屋に行って、文箱から文を出して来て文を見てうんうん頷いていた。

「あったあった。廉って呼ばれてたって。廉れんの君きみ」

「れんのきみ」

「そ、本当に綺麗な子だったって、絵姿を送って来た人がいてさ、ほら」

神宮寺がその子の絵姿を見せてくれた。
漆黒の髪、鈴か若しくは風鈴のような声、薄い色の瞳で、麗しい顔立ち…と粘着に褒めてる文に書かれた絵姿は、ほっそりとして綺麗だった。女の子みたい。

「女の子みたいだな」

「ね、でも男の子だって」

「へー…」

なるほど、女大好き紫耀でも食指が動いちゃうってワケだ。

「わかった、あんがと」

「なに、この子…なんかあるの?」

神宮寺が、少し好奇心を持ったようだった。
さすがにお上の話をベラベラ喋るのも憚られる。

「なんもねえよ。黙ってろよ」

「俺、口硬いの知ってるじゃん」

「信じてっぞ。じゃあ帰るわ、また寄る!」

適当にごまかして足早に境内を出て、また牛車に揺られて家に戻った。




俺の家は官家と言っても質素な作り。そんなに広いお屋敷を立てても面倒見きれない。

俺一人で丁度良い小さな家で、使用人も通いで飯を作って掃除なんかをしてくれる下女と、牛車を引いたり牛の世話をしたり力仕事をしてくれる下男と、後一人…いや、人じゃない。

「海人、どこだ」

パチンと指を鳴らして呼ぶ。

「あ、おかえりぃ!」

天井から、海人がトンと降りて来た。
元は狐の子が色々拗らせて妖狐になった。
ひょんなことからその名を奪って、今は俺が所有する妖になっている。
呼んだ時だけ来てくれればいいんだけど、何でか懐かれて家に住み込んでいるので、ついでに家に変な奴が入らない様に見張らせていた。

「なんかあった?」

「何もなかったよっ…なに岸宮様、なんか持ってる?懐の」

海人が鼻をクンクンさせる。

「ああ、お上の髪の毛、触るなよ。次の新月に使う」

「お上かぁ、元気?美味しそうだよね、あの人。しかも格好いいよねぇ」

妖狐なだけあって…元々は人を喰らっていたと思われる。
殿上人はいいもの食ってるせいもあって、この手の妖が最も好んで襲う。
パチンと指を鳴らし、海人を締め上げる。

「うそうそ、食べないって!ごめんってば」

もう一度指を鳴らして締め上げを解いた。

「んもー、冗談通じないね、岸宮様」

「うっせー、もう用は済んだから戻っていいぞ。あんがとな」

「はぁい。おやすみぃ」

タタッと、また天井裏に消えて行く海人。
そこに海人の巣がある。見たことは無いけど。

さて、次の新月は明後日。
廉の君が…出そうなところを割り出すか。

京の都の地図を広げる。
今までオニが出たとされる場所に、目印として手近にあった碁石を『パチン』と置いてゆく。足跡を辿ると、うろうろ迷いつつ御所に向かっている。
すると次に出るのは、多分この辻の辺りか…。

うーん、なんか…気が乗らねぇな、なんでだろ。
その廉の君とやら、片思いして死んじゃったとか可哀想だし…やっつけるしかないのかな。
もう色んなものを取り込んで、悪鬼になっていたら、それごと消し去るのもやむ無しだけど。

先の帝から紫耀に変わる時は、揉めまくって大変だったし、やっぱ御代が安定するに越したことはない。ちょっとした噂が燃え広がって、後で取り返しのつかないことになるくらいなら、早めに火種は消した方がいいのは確か…。

なんか、溜息が出てしまう。



新月の丑の刻も近づいた頃、一人で件の辻に立つ。
遠目から見たら女に見える様に唐衣を被り、目元に少し紅を差して、龍笛を奏でてオニを呼ぶ…。



「ねえ。あの人の匂いがするんやけど、あんた誰や?笛の音、きれいやね」

突然目の前に現れた、細身の少年とも青年ともつかない、不敵な美貌の主。
なんの前触れもなく、早速来た。
うわ、すごい美形。
これ…オニ?…オニなのか?

「れんのきみ?」

オニがピクッとした。正解か。

「返事すると思ったん?そんな簡単に捕まえられるほど、アホやないし。何よ、あんた?」

ニコッと笑う顔が、凶悪なまでに綺麗だった。
全然、人としての自我が残ってそうだな。
うーん、どうすっかな。

「君さ、振られて死んじゃったってホント?」

とりあえず揺さぶりかけてみる。
廉の君らしきソイツはケロっと答えた。

「ううん、まさか」

えっ?

「死んだのは…病気。でも振られたのは、そうね。迎えに来てくれるって言ってたけど…死ぬ前にもう一回会えたらなって思ってた」

なんだ、全然話せるな。
悪霊とか食ってグズグズの妖になってる風じゃない。

「じゃあオマエ、なんで人喰ってんの?『お上を怨んでる』って聞いたけど?」

驚いてる廉の君。

「え、そんなことになってるん?
俺『お上に逢いたいって伝えて?』とは言ったけど…怨んでるとかは言ってないで」

なんだよオイ。話が色々違うな。
どいつもこいつも話聞いてないビビりかよ。
廉の君は続ける。

「そいつらの魂も一口は喰ったけど…、そんなの半年くらい経てば、多分元に戻ると思うし。
だってお上に伝えてもらわないとなぁ」

じっと俺を見る、オニの廉の君。
うーん…とりあえず交渉に入るか。

「アイツさ、今はもう身動き取れなくなって、自分で伴侶を選ぶこともままならない身分になって、この国のことを一番に考えなければならなくて…。

約束を反故にしてしまってゴメンねって。
君に渡してくれって、これを託された。
許してやってくんないかな?」

懐から、紫耀の髪が入った懐紙を取り出し、廉の君に見せる。

「あ…紫耀さま…」

紫耀の髪の毛に釣られる様に、咄嗟に廉の君の表情が変わった。儚げな切ない顔をしたと思ったら、さっきまでの用心深さとはうって変わって、迂闊に一歩踏み出して近寄ってきた。
廉の君が懐紙に手を触れた瞬間、その手を捉えて引き寄せる。

「やだ!なにするん?!」

その瞬間、また不敵な顔に戻った廉の君。
随分と表情をコロコロ変える。

「捕まえた」

その細い手首をガッチリ掴んで引き寄せて…あれ、コイツ細いけど俺よりデカいな…。

「離してや!!」

後ろから『トン』と膝カックンの要領で廉の君の足を払って足元を崩す。
崩れおちる廉の君をキャッチして膝立ちさせ、俺に対して横向きの垂直になる様に固める。

しかも…オニ…か?
コイツ、元々人じゃねぇな。
これは、海人と一緒で狐か?

「オマエ…妖狐?」

顎を掴んでこっちに顔を向けさせる。
瞳の色素が薄い。
新月でよく見えないけど…狐の瞳な気がする。
…まあ、喰ってみればわかる。
そのまま素早く廉の君の口を吸って、全ての抵抗を封じた。

「んんんっ…やんんっ」

廉の君の、衣の中に手を入れて、胸の突起と、下の竿に触れる。
おっ、ちゃんと男の子だ。
一瞬、唇が離れた。

「あ…いやだぁっ…ん…」

追いかけてもう一度、その口を塞ぐ。
触れている両方を刺激すると、割と簡単にカタカタ震える廉の君。
吸った唇からは…やっぱり狐の味がする。
なんだろうこの子。

唇を離して、首筋に顔を埋める。
匂いを嗅いでも狐の匂いだ。
そのままそこを強く吸った。

「痛ぁい…んんっあっ…」

声が可愛いな…。鈴もしくは風鈴の様な声って書かれてたな、神宮寺が持ってたあの文には。
確かにそうかも。
あれ書いたヤツ、センスある。

とりあえずの『所有の印』をつけたので、これが消えるまでは俺から逃げることはできない。
そのまま、ゆっくり嬲ることにした。



胸の突起を捏ねくり回して、竿をゆるゆると扱き、ギリギリのところまで気持ちよくさせてやって、そこで止める。

「ああっ…や…」

「止めないでほしい?」

「うぅ…っ…」

「返事してよ」

つんと、廉の君の胸の突起を指先でつつくと、ビクビク跳ねる。

「やめ…ないで…っ…」

妖は、快楽に弱い。
特にこの子みたいな、まだ大人になりきってないヤツは。

「俺に、名前を教えて?」

耳たぶを甘噛みして、舐りながらその耳元で囁く。
声に言霊を乗せて放ち、徐々に縛りをかける。
触れていた廉の君の肢体が、ざわめくのを感じた。

「…れん」

「れん?」

「うん」

自ら名乗らせた。あと一息。
もう一度、胸の突起を弄る。

「やぁぁあ…んぅ…」

もう一度、廉の君の耳元へ囁く。

「れん、返事ってさ、『うん』じゃないよね?
もう一回聞くよ?名前は、れん?」

「…」

返事をしない廉の君。
名を奪われると分かっている様だった。
まだ足りないか?
下の、竿を締め上げて、鈴口だけ…その溢れ出てる露を拭う様にそっと刺激する。
身をよじってガクガクと震え出す廉の君。

「んぁっ…許してっ…もっ…やだぁ…」

「聞くのは…これが最後。お前の名前は、れん?」

「…はい」

廉が返事をしたと同時に、先ほど放った言霊がその口の中へ飛び込む。

その名を奪った。

瞬間、首につけた俺の所有の印が赤く光って、熱と共に廉の君の肢体に刻まれた。

「熱っ…痛ったぁ…いっ…」

妖封じ用の、キッツイのでつけたから…そりゃ痛かろう。
可哀想に。

「お前の名前をもらったよ、廉」

耳の中に舌を入れるとビクビク震える廉。
抱きしめて、そのまま続きをしてイカせてやった。

「ああっ…いやぁっ…」

蚊の鳴くような声をあげて、俺の手の中で果てた後で、クッタリとした廉の君。
そのままパチンと指を鳴らして眠らせてしまう。

…とりあえず、連れて帰るか。

そのまま廉と名乗った妖狐らしきものを抱っこして、テクテクと家まで連れ帰った。
背が高い子だけど、所詮狐だし軽いもんだ。



「海人、出てこい」


家について海人を呼ぶ。

「なにさ、岸宮様こんな夜中にぃ…眠いってば…」

天井から海人の声がした。

「いそぎ!早く降りてこい」

ブツブツ文句言いながら天井裏から海人が出て来た。
廉を海人に見せる。
目をこすって…ん!?って顔をした。

「え、なにこれ、妖狐?」

廉を見るなり海人が言った。やっぱりそうか。

「お前と一緒?」

海人に聞いてみる。
海人が廉の顔を覗いて、匂いを嗅いだ。

「あー…人もいるよ岸宮様。もう死んでる子」

人と妖狐と混ざってんのか。
どおりで様子が少しおかしい。
本人に事情を聞くか。

「おい、起きろ。廉」

ペチペチと廉と名乗った妖狐の顔を叩く。

「んん…」

廉が目を覚ました。

「ここ、どこ?」

「岸宮様の御宅だよ」

海人が答えた。

「岸宮って誰…あ!おまえ」

廉が俺を見て、バッ!と跳ねて、部屋の隅にあった几帳きちょうの影に逃げ込んだ。
海人が几帳の影の廉を覗きに行った。
廉を見た海人がくるっと振り返って俺に。

「えええ?!超可愛いじゃん!この子」

俺も頷いて答えた。

「だろ?そう思って連れて帰って来ちゃった」

廉が海人を見て、固まっていた。

「あれ、オマエも妖狐…?」

廉がおずおずと海人に問いかけた。
海人は頷いて微笑み返す。

「そうだよ。俺も妖狐。あそこにいるのは岸宮様、悪い人じゃないよ?ちょっとエロいけど」

余計なこと言うなと海人の尻を扇で叩く。
真っ赤になる廉。

「あれ、手つけたの?」

廉の反応を見た海人が俺に聞いてくる。

「ヤってねえよ。印つけるのにちょっと触っただけ」

「え、それでこの反応?かわいい…」

海人がマジマジと廉を見た。
そうな…妖にしては初心ウブい。

海人に「何か、飲むものとか甘いお菓子とか取ってこい」と言いつけて台所から取って来させて、「海人と二人で食べな」と二匹に食わせる。

海人が「こっち来て食べよ?」と、几帳の陰から廉を引っ張り出す。
警戒している廉。
海人が一口食べたのをそのまま廉に渡すと、廉もそれを食べた。

「オマエ、死んだ子と一緒なんだって?どういうことか教えてクレヨ」

少し落ち着いたっぽいところで、妖狐の廉に事情を話すように言うと、ポツポツ話し始めた。



「俺が狐から妖狐になって割とすぐに…桜の樹の下で…『廉の君』が倒れていたんや。
ちょうど命尽きたところで、魂が抜け出て来た。
『なんでこんなとこで死んどるの?』って聞いたら、昔、好きな人と一緒に桜を見たんやって。
だから、その人と見た桜の下で死にたかったって。

ふーんって思って…俺、お腹が空いてたから…魂を喰おうと思って…そしたら廉の君が、食べていいんやけど、ひとつお願いがあるって。

その好きな人に、もう一度逢いたいんやって。
もう来てくれないってわかってたんやけど、一夜だけ契ったその人のことが忘れられないんやって。
手伝ってくれないか?って言われたん。

俺の名前も『廉』でさ…。

廉の君と同じ名前やったし、話を聞いたら可哀想やったから…手伝うことにした。
廉の君の姿を写させてもらうのに、少しだけ魂喰ったよ。
残りの廉の君の魂は、まだ俺の中に居る。

別に好きな人に…お上に、恨みがあるわけじゃなくて、もう一回逢いたいだけなんよ、廉の君」

ふーん、そういった事情か。
妖狐が人に心を寄せるなんて珍しい。
変わってるなこの狐。

「ここへお座り、廉」

狐の廉を呼んだ。
大分警戒が解かれた様で素直にやってきた。
無論、来なければ『呼ぶ』までだけれど。
俺の前に座らせて、色素の薄い硝子玉の様な瞳を見て語りかける。

「廉の君と…お上を逢わせることは無理だな。
死んでいるのであれば尚更だ。穢れになる。

でもお上も、廉の君を忘れていなかったよ。
綺麗で可愛い子だったって。
迎えに戻れなくて済まなかったって謝ってた。

恐れ多くも自身で短刀を手にとって、髪の毛一房を俺に託されて、これを渡してほしいって…。
それを持たせてやるから…昇らないか?天に」

妖狐の廉の中の「廉の君」に聞こえたか…?

すると妖狐の廉が、パカっと口を開けた。
中から、ふわり…と出てきた「廉の君」の魂。
手を差し出すと、その上に乗ってきた。
懐から紫耀の髪の毛を包んだ懐紙を取り出して、魂に触れさせる。

魂がボフッと音を立てて「廉の君」になった。
狐の廉と瓜二つの容貌。
紫耀の髪の毛を、廉の君にそっと手渡す。
それを手にとって、胸に抱きしめて…ポロリと泣く、廉の君。

「ありがとうございます…紫耀さまに…ありがとうございますと…一夜でもお情けを頂いて…身に余る幸せでしたとお伝え下さいませ」

狐の廉と同じ容貌だけど、本物の廉の君はもう少し可憐で儚げだった。
あー紫耀が好きそう。

「伝えとくよ」

そう言ってやると、頷いた「廉の君」は、そのままスウッと消えて、昇っていった。
割と簡単。素直ないい子じゃん?
ホッと一息つく。
悪霊になってて跡形も無く消し去るとか、後味悪い事にならなくて良かった。

「はー…昇ったから言うけど…アイツにそんな価値ねえぞ!生まれながらのタラシだし。
次生まれてくる時はもっと男でも女でも、もう少し見る目養ってこいっ!」

海人が「アッハッハ!だよねぇ」と横でゲラゲラ笑っていた。

俺の弟宮の一人だった「廉の君」か。
…昇れて良かった。

で、目の前には、妖狐が二匹いた。
海人ともう一匹の、廉。

「狐の方の廉は、お前はどうする」

廉に声をかける。

「廉の君に付き合って京の都に出てきただけで、お前は別に用は無いだろ?吉野に帰るか?
帰って山奥で大人しく暮らすなら…お前の首につけた、俺の所有の印を解いてやってもいいぞ」

海人がタタッと廉に近寄って、その首を覗き見る。

「うわ、ホントだ。印を首につけるとか岸宮様…エロ過ぎね?!」

海人が叫ぶ。
…お前の場合は、自分から俺のところに来たから場所を選べたんだろ?
廉の首につけたのは…完全に俺の趣味だけど。

海人が廉にまとわりついた。

「俺、仲間欲しい。れんさぁ、可愛いし…一緒に岸宮様の家に住もうよ〜」

馴れ馴れしい海人にビクつきながらも、廉が、じーっと俺を見ていた。
なんだろう。

「岸宮さんっていうん?」

廉の君が抜けた狐の廉は、少しボンヤリしていた。まさに『魂が抜けた』感じ。

「そうだよ」

答えると驚きの返事が返ってきた。

「俺…ここにおってもええかな?」

えっ、吉野に帰らないの?
てか、帰ると思ってた。
「わーい!」と喜ぶ海人。

「まあ…妖狐の一匹や二匹…別にいいケド?」

ビックリした。けど、海人の遊び相手がいれば…少しはこいつも静かになるかも…?
とか考えてたら、狐の廉がおずおずと近寄ってきて、ぴとっと俺に抱きついてきた。
ぎゃっ!と驚いた海人が叫ぶ。

「なに廉、まさか岸宮様を好きになったの!?
待って、この人もお上に負けず劣らずでロクでもないよ!?
なんてったって腹違いだけどアイツの兄ちゃんなんだから!」

海人うるせえな。
てか、マジか?この狐…。

廉が俺にくっついた身体を少し離して、口を開いた。

「ウソ、ついたよな?さっき」

真っ直ぐな目で見つめてくる廉。
ドキッとする。
なんでお前がそれを知ってる?
廉は続けた。

「ホントは、お上に髪の毛切らせたの…岸さんやろ?
お上は『廉の君』を覚えてたけど、迎えに行く気は無かった。謝ってもおらん。

『廉の君』が最初に懐紙に触れた時、俺も触れたから…チラっと視えた」

触ったら視える…千里眼てヤツか?
廉は続けた。

「廉の君にそれを教えたけど、廉の君は『お上が、自分のことを覚えていてくれただけで嬉しい』って言ってた。

それで、岸さんが腹違いのお兄さんなのも、廉の君と似た気配があるから多分…て俺が教えたら『兄上様に優しくして頂けて嬉しい』って」

廉の君、マジいい子じゃん。
紫耀なんかにもったいなくね?って、一応帝か…。

「最後に俺に『これで昇れる。狐の廉もありがとうな、魂を食べさせてやれなくて、ゴメンな』って言って、天に昇ったんや」

ちょっと寂しそうな狐の廉に見つめられる。
話した内容については、俺は否定も肯定もしなかった。
うるうるとした色素の薄い、狐の瞳の廉。

「優しいなって思って…好き」

っていったその狐が、俺の口をチュッと吸って来た。

「まーじー!?」

海人が横で叫ぶ。
もーうっせえな、巣に帰れ。パチンと指を鳴らして海人を天井裏に戻した。

狐の廉の口を離して、マジマジ見つめる。
紫耀が一目惚れで好きになった「廉の君」から姿をもらっただけあって、綺麗で可愛い。
妖狐か…ヤッたことないけど…悪くないかも。

「一緒に、寝るか?」

「うん」

ニコッと笑って、スリッとくっついてきた廉を、唐衣に包んで寝所まで運んで連れてった。



寝所に廉を横たえる。

灯を近づけて、その顔を見る。
薄い瞳の色の奥に…狐の瞳が見えた。

長い腕を俺の首に絡ませてくる廉。チュっと唇を重ねてくる。舌を入れて絡め取ってやると、小さく声を上げた。

やっぱり狐味…。

衣を剥いで露わにすると、すっげー細かった。
少年っぽい、一切無駄のない裸体。
殿上人の様な白い肌…とはいかないけれど、浅黒いすべすべサラサラの肌。
もちろん嫌いじゃない。

胸の突起を触る。

「…っ」

唇を噛んで声をかみ殺す廉。

「噛んじゃダメだよ、廉」

指をねじ込んで、口を開かせる。

「さっきもここ、気持ち良さそうだったな」

触ってるのと反対側を舐めってやると、廉が鳴いた。

「ああ…んんん…うぅっ…ん」

声…高いな、可愛い。
胸の突起を嬲った後、しゃぶらせていた指を抜いて、身体を開かせて、下の口へあてて中へ入れる。

「いっ…た…んんっ」

唾液だけじゃ足りないらしく、眉をひそめる廉。んーと…ああ。
ふっと息を吹いて灯を消す。
一度指を抜いて、燭台に注がれた油を少し手にとって馴染ませて、もう一度下の口へ指を入れた。

「あ…んんっ」

「痛いか?」

ふるふると頭を振った廉。
竿には触れず、下の口と胸の突起だけ延々と弄ってやると、廉は自分の竿に手を持っていって自ら扱き出した。
その手を払う。

「やっ…ぁあ…」

「誰が触っていいって言った?」

泣きそうな廉。
もう少しそのまま虐めると、泣き出した。
ポロポロと泣きながら真っ赤な顔で俺を見る。

これが見たかった。

可愛い子を虐めて泣くのを見ると興奮する…悪い癖ってわかっていてもやめられない。…だから嫌われて長続きしないんだけどさ。

「お願いや…触って…」

泣きながら廉が言った。
ちゅっと唇を重ねて、微笑みかかける。

「最初からそう言えばいいんだよ、廉」

細い腰を引き寄せて、下の口に俺自身ねじ込む。

「んんぁあっ」

そこで初めて、廉の竿に触れて、そっと刺激してやった。廉はビクッと身を捩るとカタカタ震え出す。腰を揺すると、気持ち良さそうに身悶えていた。

「岸さ…ん…。きし…さ…もっと」

長い足を俺の腰に絡ませてきた。
廉の瞳が光る。

ああ、廉の君の魂が消えて…この狐、腹すかせてんのか。

身体を重ねて、廉を好きに揺さぶって自分の快感を追いながら、唇も重ねた。

「喰って、いいよ」

少し、俺の魂を口移しで分けてやる。
ビックリして目を見開いた廉。
それでも迷わず喰らいついた。

そのまま強く激しく廉を揺すって、しばらくして俺の精を廉のナカに解き放った。顔を真っ赤に染めた廉の竿を少し強めに刺激すると、間も無く廉も果てた。

「ありがと…岸さん…上も下もお腹いっぱい」

「…」

…言い方。
まあ、精魂喰いたかったら…これが手っ取り早いよな。
相手は妖狐だったわ、そう言えば。
でも噂に違わず、具合はかなり良かった。

廉から抜いて懐紙で拭った後、ダルくて横になったら、もう俺に用はないだろう狐がへばりついてきた。

「なんだよ」

「好き」

そう言って唇を重ねてくる廉。
涙の跡が見えた。
仕方ないなぁと抱っこしてやると、懐に入り込んできた。廉の方がデカいんだけど…。

「岸さん、好きや」

ちゅっちゅと懐かれて悪い気はしなかった。
顔は美人だし、中身もなんか可愛いなコイツ。
人じゃないけど、人肌に触れるのも久しぶり…。
暖かくて眠くなってきた。



眠い…けど眩しい…。
朝起きて…何かあったかい…と思ったら、俺の横にひっついた廉がいた。
そっか…。昨日は妖狐を拾ったんだっけ。

廉は、悪く無かった。
明るくなってから初めて見た寝顔も可愛い。

ボンヤリした頭で「今日のお日柄って何だっけ…」と思い出す。吉日か。
しょうがない、御所行くか。

「廉、起きろ」

ベロっと廉の口を舐める。
んんっと伸びて、廉が起きた。

「海人を呼ぶから、何か服を着せてもらえ。そんで俺も後で面倒な服着るから手伝ってくれ」

頭を撫でるとコクンと頷く廉。
パチンと指を鳴らして海人も呼ぶ。

「海人、起きろ。廉になんかお前の服を貸してやってくれ。そんで俺の着替えも手伝え」

タタッと天井裏から降りて来る海人。
手には前にしつらえてやった服を持っていた。

「おはよう、れぇん!これ、きっと似合うよ。着せてあげるね」

海人が廉に服を着せて、ニコニコ廉を見ていた。廉は大人しくしている。海人と廉を並べて見てるとなんだか双子みたいだった。

大分遅い朝ごはんを食べて…御所へ出仕するのには着替えなければならない。
海人と廉に手伝ってもらってなんとか面倒な正装に着替え、龍笛を携えて、出かけて良い時を待って殿上に上がった。



清涼殿の一室で、女官たちの所に遊びに来た体で、彼女達に琴を弾かせる。
俺は笛を吹いた。
笛の音が聞こえれば、「偶然」通りかかった紫耀が来るはずだ。
正式に謁見とかは面倒くさい。

間も無く「偶然」を装って、ふらりと紫耀がやってきた。紫耀はすぐに人払いをして近くに寄ってきた。扇をかざす。

「それで?」

意外に真剣な顔で聞いてくる紫耀。

「ありがとうございます。一夜でもお情けを頂いて身に余る幸せでした」

と、言うと紫耀が固まった。
…前に言われたのか。

「ってお前に伝えてくれって言って、お前の髪の毛を胸に抱いて、微笑んで昇っていったよ。
あの子…廉の君って呼ばれてた子は、病気で亡くなってた」

事の顛末を一部始終、紫耀に伝えた。
但し、妖狐の廉が「廉の君」の姿を写してることを除いて。あれは俺の「廉」だから。

黙って最後まで聞いた紫耀は、

「そう…か…」

と、パチンと音を立てて、開いていた扇を閉じて、一丁前に悲しそうな顔をした。

「この前はさ、結局出来なけりゃ、やらないのと同じだって思って『そんな気無かった』って言っちゃったけど…。

桜が咲く頃に…俺、ちゃんと、もう一度行きたかった。約束を破るつもりはなかった。
一夜の事だったけど、本当におっとりとした、優しくていい子だったんだ。宮中に迎えて…果たして幸せに出来たかはわからないけど…それでも迎えようと思ってた。

でも、父上が御隠れになって…それどころじゃなくなった」

少し泣きそうな顔をした紫耀…珍しい。
紫耀が東宮のままだったなら、それもできたかもしれない。でも先のお上が亡くなられた後の紫耀はとても大変だった。

「母の、永瀬はまだ生きてるのかな?」

紫耀が何となく上の空で聞いてきた。
驚いた。ちゃんと廉の君の出自を調べていたのか。

「さあ?俺の母方の実家で、件の文を探せば行方がわかるかもしれないけれど」

紫耀は少し考えてから、近くにあった文箱から筆と紙を取って和歌をしたためると、懐から匂い袋を取り出した。

「これと、幾許かの金子を預けるから、誰か使いのものを手配して『廉の君を…弔って欲しい』と名前を伏せて永瀬に渡してもらえる?」

「…分かったよ」

紫耀が書いた和歌と匂い袋を受け取る。

「ありがとう、頼むね。岸くん…確かさっき笛吹いてたよね。何か聞かせて」

悲しそうに目を細めて微笑む紫耀。
俺は頷いて、今の季節と合っていないけれど…春の曲を、桜の花の曲を奏でた。



紫耀がミカドの顔に戻り、この部屋へ来た時と同じ様にふらりといなくなり、俺も清涼殿を下がった。

家に帰る牛車の中で、こっそり紫耀の書いた和歌を開けて見た。

『今一度 忘れ去らねと 咲かせども 散らしても欠片 愛しきままで』

『言の葉が 宙に舞い散り 壊れども 思ひを虹に 君にぞ届けむ』

…紫耀にしては上出来じゃね?
もう一度綺麗に折りたたんで懐にしまった。
あの可憐な感じの『廉の君』なら、こんな恋文でも喜ぶんだろうな。



家に帰る頃にはとっぷりと日も暮れていた。
作り置かれた夕飯を食べてから、海人と廉を呼ぶと、二人はすっかり仲良くなった様で、団子になって天井から現れた。
廉に尋ねる。

「廉の君の母君の永瀬はまだご存命なの?」

「うん、まだ生きてるで。尼さんになって廉の君の菩提を弔ってる」

廉の君の墓の場所も知ってると、廉が答えた。

「そうか。んじゃ明日になったら海人と廉の二人は、俺のお使いに行って来てくれ。
妖狐でも吉野は遠いだろうから、デッカい烏を呼んでやる。あれに乗っていきな。

廉は海人に道案内してやって。廉の面だとマズイから、狐のままで人の姿にならないこと。

海人はそれっぽい格好で行って、永瀬にこの和歌と匂い袋と金を渡して」

二人の顔を見て頼むと、海人と廉がそれぞれ頷いた。よしよしとそれぞれの頭を撫でる。

さて。

「俺は寝るけど、廉はどうする?来るか?」

廉の顔を見た。ニコッと嬉しそうな顔をした廉が、ピトッと俺にひっついて来た。やっぱりこの狐、可愛いな。
海人が泣きそうな顔でゴネる。

「ええぇ?!れぇん!?カイと一緒に寝てよ。一人じゃ寂しいじゃん」

「昼間たくさん遊んだやん。昼寝も一緒にしたやろ?俺も夜は、岸さんと一緒がええ」

俺にべったりひっついた廉が海人に答えた。
廉を抱っこしながら「ホレ、海人は天井裏に戻れ」と上を指差してやる。

「廉の裏切り者ぉ!岸宮様のエッチ!!」

海人が泣きながら天井裏に戻って行った。
ハハハって笑ってると、廉が俺の口に吸い付いてきた。



END(次ページおまけあり)


〜 狐日記 廉編 〜


(Ren)
岸さんが御所へ出かけてった後、海人と二人になった。
「れん、俺の巣に来る?」と天井裏を指差す海人について、天井裏に登る。
意外に広くて、綺麗に床板も貼られていた。

いくつかの服がきちんと畳まれて置かれていたのと、天井は低いけどこざっぱりとした寝所もあった。
そこに綺麗な色の袿が何枚か無造作に置かれていて、海人の巣っぽくなっている。

「岸宮様がお屋敷建てる時に、天井裏にも床を貼る様にって大工さんに頼んでくれたの」

「へーええ人やな」

「そうだね。まあ顔もちゃんとよく見れば男前だし、ああ見えて笛と舞いの名手だよっ。
和歌も詠まれるの。
でもそれ以外はホントダメだから。
服も、寝巻きすら一人で着れないしね。
だからカイはいつもポンコツとか言っちゃうけど、あの人が拾ってくれなかったら今頃…野垂れ死んでた」

「そうなん?」

「うん。カイね、妖狐になったはいいものの、ろくに魂も喰えなくて、逆に悪霊に喰われそうになってたの。

そこに岸宮様と紫耀宮様…今のお上がまだ東宮で小さかった頃に、たまたま通りかかった。
紫耀宮様が『ねえ、何とかしてあげて?』って岸宮様に頼んで下さったの。

紫耀宮様ってすごいイケメンでさ、中身も割といいヤツなんだよ。オマケに血筋も良くて、多分喰ったらめっちゃ美味いと思う。
でもアホでエロかった。笑
岸宮様とはお腹違いの兄弟なのに、その辺そっくりでいい勝負…あ、これは余計だねっ。

でね、岸宮様が『お前、俺の手下になるなら助けてやるぞ』って俺に言ってきた。

お願いしたら悪霊をやっつけてくれたんで、俺の名前を差し上げて、ココに所有の印をつけられた」

そう言って海人は右手を出してきた。
右手の甲に岸さんの所有の印がついていた。
でも俺のと雰囲気が違う。

『KC』

読めないけど何かの記号みたいだし綺麗だった。

「カイは手を出してカジられてつけられたよ。
だからお二人とも知ってて、昔は三人で一緒に遊んでたんだ。紫耀宮様が即位された今となっては、もうお目にかかることもないけどね」

そう言って海人はニコッと微笑んできた。
悪いヤツやなさそうやけど…一つ、気になることがあるので聞いてみる。
返答によっては…山に帰るのも有りかもしれん。

「海人は、岸さんとは…するの?」

海人が目をまん丸にしてビックリしていた。
え、そんな驚くこと?
このシチュエーション的に…海人もそうなんか?って思うのが普通やろ。

「まさか!勘弁してよ、れぇん。あんな…おっかない人ヤダよ」

海人はブンブンと首を振る。

「今まで俺も何度か見てきたけど、妖、悪霊、物の怪…負けた事ないんだよ?あの人。
最近はさぁ、実は岸宮様は『ヒト』ですらないかも?って思ってる…」

確かに、俺を捕まえた時もアッサリで勝てる気せえへんかった。
名前もあっという間に取られたし。
ふと気になって、首筋で微かに痛む岸さんの所有の印を撫でる。
でも、昨日ヤった感じは悪くなかった。気持ちよかったし、イジめてはくるけど、何やかんや無茶もしなくて優しかったけどなぁ。

「れん…、岸宮様を好きになったの?」

海人に聞かれて「うん」と答えた。

「あの人さ、昨日の夜ヤッてる時に『廉の君』が消えちゃって腹減ってた俺に、ちょっと魂食わしてくれたんよ。
会ったばっかりの妖狐によ?」

海人が「はぁ」とため息をついた。

「岸宮様…おっかないくせにさ、そうやって無自覚に人でも妖でもタラシこむんだよねぇ…。
とにかく俺は、岸宮様とそういうのは無いよ。
廉のことは、寝所に連れてくくらいだから気に入ったんだと思う。まあ、頑張って」

ぽんと海人に肩を叩かれた。
そうなら、良かった。
コイツも何だかんだ良いやつだな。
海人に近寄って身体をなすりつけた。

「げ、岸宮様の匂いするよ、廉」

海人も俺に身体をすり寄せて、狐の匂いをつけてくれた。居心地良さそうやし、ここにしばらく住むことした。



〜 狐日記 海人編 〜

(Kaito)
少し前に岸宮様が妖狐を拾って来た。
丁度俺と同じ背格好の、しかも超綺麗な狐。
廉は夜は岸宮様と寝ちゃうから一緒に寝てくれないけど、昼はカイと一緒に遊んでくれる。
最初はとっつきにくいか?と思ったらすごく優しくて、カイの話もうんうん聞いてくれて、おっとりした子だった。

パチンと指が鳴る。

「海人、廉、降りてこい」

二人で狐のカッコで丸まっていたら岸宮様に呼ばれた。人のカタチで降りていくと、二式の衣が並んでいた。

「二人で着てみろ」

と言われてキャッキャしながら着せ合って…着てみたらお揃いの服だった。

「おーいいじゃん」

俺たちをみてニコニコしてる岸宮様。

「岸宮様、これ、どうしたの?」

「二匹でお揃いなのを見たくて作った」

「うっそー!超ケチなのに!?」

「こういう時のために取っといてるんダロ?」

パシッと扇で尻を打たれる。痛ったぁ…。
この人ホント、ドSで容赦ないよね。
廉と岸宮様がシテるの、たまに聞こえてくるんだけど…。


「いやぁぁあ」

「じゃ、やめる」

「…」

「だって、ヤなんダロ?」

「ヤじゃない」

「でもする気なくなっちゃった」

「…」

「やっぱ廉、泣いたら可愛いな」

「…」

「おいで、違うのしよっか」

「んんっ」

「イヤって言ったら、またやめるからな。あ、唇噛むな」

「ぁぁあっ…」


とか、しょっちゅう…。
何してるのか知りませんけどっ。

なのに廉は、岸宮様見つめる目線がいつも好き好き光線なんだよね。

岸宮様はどうなんだろ?
前は夜にふらっと出かけてたりしてたけど、最近はそういうの無くなった。

毎晩廉と一緒に寝てる。
エッチはまあまあ…夜は暇だよね…。

廉を見てる目は、最初は絶対好奇心だったけど、最近はどうなんだろ。
「かわいーなー♡」って感じ?
気に入ってるとは思うんだけど、好きなのかはよく分からない。

あの人…マジ謎だし。



オマケEND


言い訳のあとがき。

♡和歌の出典
glass flowerと宙です。笑
超適当和歌なのはご容赦ください。

♡読んでくださってる皆様へ
ミカの趣味で好きな話を書いてますが読んでくださる方がいてとても嬉しいです。
ブックマークとかイイねに至ってはキャッキャしてます。笑
ミカの拙い話にありがとうございます。

♡そしていつものミカがお楽しむアンケートなど答えてくださるとミカが喜びます。
アンケートはアプリでは表示されないという噂…気が向いたらブラウザでお願いします。

♡これまでアンケートに答えて下さった皆様へ♡
超ありがとうございます!!
「春の刻」みたいなファンタジー系でも意外に読んで下さる方がいらして、結構票が割れてました。ビックリしたのが「バケがいい仕事した」と答えてくださった精鋭の皆様が結構いらっしゃって…。笑
ということで、どこに需要があるのかわかりませんがこの話を公開することにしました。

23 Nov 2019
 
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