平安物語②の1 雨降り夜話第一夜 疳の虫
(KC)
先日、右大臣から呼び止められた。
近々歌会をやるので是非にと。
右大臣は岩橋中将
いわはしのちゅうじょう
の父君で、宮廷内でも中々の権力を持たれていらっしゃる。
歌なんて興味ないハズなんで「歌会」は、別の目的の『ついで』に催されるものだろう。
俺はそういうのには関わらないで生きているので、普段なら遠慮するところだけど「どうしても…」と誘われて、無下に断る訳にもいかず、後で断るつもりで一旦返事を保留した。
すると今日、清涼殿の女の子達が集まってる所に遊びに行ったら「偶然」お上
かみ
が通りかかった。
お上…もとい紫耀に「偶然」はない。全部意図的だ。
紫耀はニコニコ顔で「賑やかな声がしたと思ってね」とかなんとか言いながら俺に近づいて、扇で周りを遮って「右大臣の件、妖からみでさ…」と耳打ちされた。
こういうことはまずしない紫耀が、珍しくボソッと。
マジ、ダリぃ。
但し、紫耀は宮中のお偉い所達とのパワーバランスとか、色々あってがんじがらめの真っ只中。
「岸くん…岸くんはいっつも信用してるの…ホントに」
扇の影で、子犬みたいな顔で見つめてくる紫耀…中身は全然子犬じゃねえけど。
「クッソ…しょーがねーな。一つ貸しだぞ。倍にして返せよ?!」と、紫耀に恩を売ることにした。
そして早速右大臣から『明日、以前お願いしていた歌会をするので岸宮様も是非…』とカッタルイ感じで誘われ、渋々足を運ぶことになった…。
御所から戻り、俺が飼っている妖狐の海人と廉を呼んで正装の衣を脱ぐのを手伝わせて単衣
ひとえ
になった。
夕飯を終えると、用事が終わった海人はさっさと屋根裏の巣へ戻る。
廉も、いつもは俺が寝所に行く時に呼ぶまでは、海人と一緒にいるのだけれど。
「岸さん、俺、いてもいいかな」
廉が所在なさげに聞いてきた。
普通、名前を奪われて使役されている妖
あやかし
は、用事が済めばさっさと消えるのが世の常、妖の常…なんだけど、この狐は最初から大分様子がおかしかった。
人の子に同情して吉野から京の都まで出てきて人探しに付き合ったり、魂食いっぱぐれるというのに天に昇るのを黙って見守ってみたり。
挙句、妖封じの『所有の印』を付けた上に名前を奪った俺を『優しくて好き』という。
初めは好奇心もあってヤッてみて、その後も何度か夜に付き合わせてイジメたりもしてるけど様子は変わらない。
変な狐。
「…別に、いいよ」
そう答えると嬉しそうに近くに寄ってきた。
隣に座ろうとするので、俺の足の間に座れと指で差して促した。廉は大きい身体をうまいこと折りたたんで俺の足の間に入った。
暖かいな…と思った時に、外が少し寒かったことに気がついた。
「今日、なんか身体重いから…雨降るかもしれんね」
廉が呟いた。
そうか雨が降るから、何かカッタリイのか。
まもなく、しとしとと雨が降り始める音がした。
寝るまでの間はボーッとしようと思っていたけれど、それだと狐がヒマかと思って碁盤を引き寄せて囲碁を教えてみる。
「要は陣取り合戦だ。黒から打つ。後は交互に打てばいい」と、人差し指と中指で碁石を挟み、パチンと碁盤に置く。
「岸さん…碁石持つ手が、かっこええな」
クルッと振り返って、キラキラした目で俺を見てくる廉。
…そこ?
「だって持ちにくくないん?俺できないわ…」と、人差し指と中指で碁石を挟んだ廉が、つるっと石を飛ばした。
「別に…家で遊ぶんなら碁石はどう持ってもいいよ…。
で、こんな風に周りを囲まれて逃げられなくなったら、中は全部相手の陣地な?簡単ダロ」
何個か碁石を並べながら、基本の決まりを説明してやった。
「わかった。このゲーム、オモロいな!」
「試しに遊ぶか?」と打たせてみたら、廉はなかなか筋が良かった。
この季節には珍しい雨がはたはたと降り続けて、屋根を叩く音がする。
夜も更けて来たので、廉を連れて寝所へ移る。
…そう言えば岩崎中将って、廉が襲ったと噂になってたヤツか?と思い出して、本人に真相を聞いてみる。
「お前が廉の君とオニごっこしてた時、岩橋中将って襲ったか?」
寝所で、俺にべったりくっついている廉の頭を撫でながら聞いてみた。
「誰や?」
「俺より少し小さいくらいの、女顔のキラキライケメンの公達
きんだち
」
岩橋中将…確か阿部
あべ
の君
きみ
が岩橋中将と仲がよかった様な。
ヤッたんだっけ?うろ覚えだな…。
でも確か『あの顔でタチとか衝撃的!』って笑って話してた気が…。気のせい?
少し考える廉。
首を傾げて。
「んー…そんなんは、おらんかったわ。
岸さん以外はみんな、背と身分の高そうな、優しそうな、金もってそうなイケメン狙ったし。
…女より男にウケるのな、『廉の君』の見た目」
そうですか…。
狐の廉は『廉の君』から人の時の姿を写しているので、見た目について語る時は人ごとの様に話す。
「あ、でもその人らは全員、廉の君が『あの人にしよう』って決めたんやで?」
『廉の君』は、面食いか。
紫耀…背は普通じゃね?ああでも、顔は派手なイケメンで、金と身分は抜群。
廉の君…あんなに可憐で儚げだったのに侮れない…。
「俺が声をかけたのは岸さんだけや。笛の音がすごく綺麗やったから…」
廉がニコッと俺に微笑んできた。
確かにあの時、話しかけてきたのは『廉』だったな。
「妖寄せの曲を奏でてたから…廉の耳には綺麗で心地良く聞こえたと思うよ」
と答えるとブンブンと首を振る。
「確かに好きな音程の曲やったけど、それだけやなかった。本当に綺麗な音色やったし、どんな人が奏でてるのか気になったんや!ホントよ?」
鈴の様な声で、必死に話す廉。
そう言えば一度、家で気が向いて笛を吹いていたら、呼んでいないのに廉が降りてきたことがあった。
そーっと降りてきたらしく、気がつくと部屋の隅で大人しく聞いていた。
やっぱり変な狐。
「ホントのことやもの…。声かけたら透けるように白くて、なんて綺麗なお公家さん…って思ったのに…なのに、あんな目に遭ったから、最初はガチで衝撃的やったわ」
廉が目を伏せる。
そりゃそうだろう。
妖相手だもの、手加減する訳が無い。
お前がおかしい。
「…終わった事言われても、どうしようもねぇな」
そうなんやけど…と言ったきり、黙り込む廉。
しょんぼりしている。
しょーがねーなー。
…こういう時は確か、出来るだけ優しくチュっと唇を重ねればいいんだっけ?
あとは…。
今日のイジメるネタを思いついた。
「悪かったな」
ズルして言霊を乗せて耳元で囁く。
廉の耳からニョロニョロと『悪かったな』の文字が入っていった。
「岸さん…」
廉はチョロいので、すぐに誤魔化される。
そんで…廉の目元がほんのり赤くなって、言い淀んだ。
さっきのニョロニョロのせいで、狐がソノ気になったハズ。
予想通りチュッと廉が吸い付いてきた。
「なんだよ」
知らん顔をする。
唇重ねたくらいで、俺が動くと思うなよ。
「して…」
「何を?」
また?!という顔をする廉。
「皆まで言わんとあかんの?!毎回?!」
ぷりぷり怒り出した。
かわいい。
「俺、ソノ気になってないしなぁ?…誘ってみろよ」
『ええーっ?』て感じの泣きそうな廉。
てか、泣け。
が、狐も慣れてきたのか、これくらいじゃ泣かなくなった。
つまんねぇの。
「…触っても…舐めてもええ?」
そう来たか。
「いいよ」
仰向けで腕を枕の格好のままで寝転んでたら、廉が俺の下半身に顔を埋めた。
あー明日かったるいなぁ…てか行きたくねぇ。
とかどうでもいいことを考えてたら、狐がなかなかいい仕事をしてきたので、誘いに乗ることにした。
最近は廉とばかりしているので、どこがイイのか好きなのか、大分詳しくなってしまった。
手取り早く廉の好きな様に触って、イカせてやった。そこはさすがに俺が蒔いた種なんで回収してやる。
ニョロニョロの言霊が出ていくのを見送った。
が、この狐が…『岸さんがまだだから挿れたい』と言い出した。かわいい。
「じゃあ自分で広げて、自分で挿れろ」
今度は泣くかな。
チラッと見ると真っ赤になって涙目になってきた。
「なんでいっつもそうやって…イジメるん?」
これって質問じゃねーんだよな。
だから真面目に答えても意味がない。
ホントの意味は『イジメんな』ってコトだから。
もちろん無視。
「すんの、しねーの」
じっと見つめる。
今度こそ、泣け。
廉の瞳からポロっと涙が溢れ落ちた。
泣いた…!
よしよし、泣いたら話は別だ。
寝転がっている俺の上に廉を乗せて、俺を跨ぐ様にして足を開かせる。
頭を引き寄せてチュッと口を吸ってやる。
泣いてる涙もベロッと舐め取ってやった。
あー…かわいい。
一気にヤル気が出た。
「ホンマに…趣味悪いで、岸さん…」
さっきのは効いたみたいで、まだ泣き止まない廉。
「だってしたいのはお前だろ?
俺がその気になんないと始まらないじゃん」
今日二回目の、そうなんやけど…と呟く廉。
「…可愛いから、広げるのは手伝ってやる。挿れるのは自分で挿れて、俺に見して」
そう言って頭を撫でる。
半ベソの廉の口に指を入れてしゃぶらせた後で、下の口に指を入れて広げてやった。
雨がなかなか止まない所為もあって、俺の虫の居所がよろしくない。
飼ってる狐に当たってもしょうがないのは、わかってる。
でも止められない。
廉は頑張って俺のを自分で咥え込み、自分で腰を浮き沈みしようとして…ふるふる震えていた。
廉の首の付け根に、妖封じ用の、俺の所有の印が見える。
とてもエロくていい。
でもこれ『主人が誰か』を思い知らせる用だから、ずーっとジワジワと痛いヤツなんだよな。
今日みたいな雨降りの日は特に。
あの時は半分遊びでつけたけど、もし、ずっと俺の所にいるのなら話は別だ。
近い内に、なんとかしてやんないと。
どうするかなぁ…。
「岸さ…お願い…」
廉が動けなくなったっぽい。
下から少しずつ揺すってやる。
竿も触ってやると、廉は気持ち良さそうな顔をしてギュッと目を瞑った。
この狐…廉が、俺の側から居なくなるのは…。
嫌だ。
変な狐だけど、気立てが良い。
泣いた時の佇まいも好みだ。
笑っても可愛い。
朝起きて隣で丸くなってたり、くっついてたりするのもいい。
ただ、所有の印を解いたら…廉はどうするだろう?
最近、それを考えては苛々して余計にイジメるという悪循環に陥っている。
今までだと、そろそろイジメすぎで…フラれるのがいつものパターン。
朝…廉に起こされる。
朝ご飯を意識ないままボーっと食べる。
で、お呼ばれしてお出かけするには宮様っぽい何かを着なくちゃいけない。歌会ともなると、例えそれが儀礼上だとしても、季節とか趣向とかを意識した身なりを求められる。
こういうの、マジで面倒くさい。
ご飯を食べてる間に二匹の狐があーでもないこーでもないと話をしている。
「今の季節やったら、この色とこの色を重ねると…ええんとちゃうかな?」
「そうなんだ?!あー!確かに素敵だねぇ。廉、お洒落さん♡」
最近お出かけで着る服は、海人と廉の狐会議に任せることにしている。
キャッキャと楽しそうな二匹のやりとりをボンヤリ眺める。
服が決まったらしく、今度は服に焚きしめる香りを何にするか相談している様だった。
…何でもいいから早くしてくれ。
自分で服を着れないので、待つしかなかった。
「岸宮様、決まったよぅ!香りもバッチリ!着付けするよっ」
海人に促されて立ち上がる。
「はいはい、よろしくお願いします」
宮様っぽい服を着せてもらった。
なんかいい匂いもする。
笛とか舞いとか歌はいいんだけど、香道とかはマジでちんぷんかんぷんで、誘われても絶対パスしてる。
この二匹、服は廉で匂いは海人が得意っぽかった。たまに連れ立ってどこかに見に行ったりしてる気配がある。流行りを調べるとか何とか言ってた…かなぁ。
「じゃ、行ってくるわ…」
二匹に見送られて牛車に乗り込む。
海人が「もー頑張ってよぅ!せっかくおめかししたんだから!」とブツブツ言って、廉が横で笑っている。
「超イケてる宮様だよっ!気をつけてねぇ」
「いってらっしゃい」
あー…行きたくない。
右大臣宅は、さすがに時の人の邸宅って感じで下品なくらいに豪華だった。
なんで金持ちってこうなんだろ。
ま、知ったこっちゃ無いけどな。
案内される廊下で扇で半分顔を隠しながら歩いてると、廊下沿いの几帳の向こう側で、ここの家に勤めてる女どもがざわざわと移動してきて…めっちゃ見てる…。
「岸宮様よね?」「初めて…」「いい匂いするぅ」「カッコいい」「さすが宮様よね…その辺の公達とは全然品格が違って…」
いい感じのヒソヒソ話が聞こえてくる。
御所の、特に清涼殿の女どもは紫耀を見慣れてるから、俺くらいじゃ眉一つ動かさない。
こういうの、久々だなぁ…。
サービスしとくか。
曲がり角で、声のする方にチラッと視線を投げてから、少し扇をズラしてキメキメで微笑みかけると「きゃー!!!」っと几帳の奥から一斉に派手な金切り声が聞こえてきて、何人か倒れる音が聞こえた。
おっ、気分いい♪
歌会とは名ばかり、カタチ的にはやったけどすぐ終わって、俺は奥の部屋に通された。
一応、皇族で宮様なので上座に案内される。
右大臣がやってきた。
何度見ても『ザ・金持ってそうな爺さん』。
「岸宮様、この度はわざわざ足を運んでくださいまして、ありがとうございます…。
実は我が愚息につきまして…先月、と、ある辻にて物の怪に襲われて以来…その…様子がおかしくなりました。
霊験あらたかな高僧に加持祈祷をお願いしたのですがなかなか良くならず…恥を忍びながら、この度こうしてお願い申し上げる次第でございます…」
話が長くなりそうなので切り上げる。
「あ、そういうのいいよ。息子さんはどちら?とりあえず見して」
こちらへ…と、その部屋の奥の几帳の影に案内された。寝所があって、岩橋中将と思しき公達が寝かされていて、少し赤みを帯びた顔でうんうん唸ってた。
ああ…。
岩橋中将の身体の上に、淫魔が乗っかってた。
しかもこれは誰かに放たれてんな。
フラれたヤツの腹いせとかか?
うーん…。
ひと昔なら超美味しいハナシ。一回このイケメンとヤッて蹴散らせばお終いなヤツ。
でもなぁ…。
家に居る狐の内の、一匹の顔がチラつく。
バレたら…多分色々面倒くさい。
泣くかもしれない…しかもそれ、何となく後味が悪い泣き方な気がする。
バレなきゃいいか?と一瞬考えたけど、確かアイツ、触ったら視えるって言ってた…。
バレるな。
誰か代わりに淫魔を蹴散らせそうな、男もイケるヤツっていたっけ?
しばらく考える…。
あ!ピッタリのヤツがいた。
アイツに押し付けよう。
クルッと振り返って、右大臣に、さも残念そうな顔をして話しかける。
「右大臣、拝見したところ原因はわかったけれど…。私はお役に立てない様だよ」
右大臣が『えっ』て顔をして、ガックリと肩を落とす。すかさず満面の微笑みで続ける。
「ただ…。心当たりがあるから、そちらを紹介しよう。口添えもしてあげる。紙と筆を持ってきて」
すぐさま用意されたので、紹介の文を書いた。
「これを持って、これから言う神社の神職に相談するといい。妖を祓うためには一夜、御子息をそちらへ預けることになると思う」
ニッコリ笑って文を折り畳み、包んで渡した。
ははーっ!ありがとうございます!!と恐縮する右大臣。
「じゃ、お邪魔したね。重ね重ね…お役に立てなくて残念だよ」
右大臣からの挨拶もそこそこに、さっさとトンズラした。後はアイツがなんとかするだろ。
家に戻ってよそゆきの服を脱ぎ捨てて、単衣になり、適当にその辺にあった衣を上に羽織った。
パチンと指を鳴らすと海人と廉が降りてきて着ていた服を片付け始めた。
「あ…」
廉が、直衣を片付けてる最中にいきなり真っ赤になっていた。
「どうしたの?廉」
海人が赤くなった廉に問いかける。
「何でもない…」
不思議がる海人を他所に、目を伏せた廉が俺を見た。じっと廉を見つめ返してやると、慌てて視線を逸らして直衣の片付けに戻った。
ああ…。
廉は触ったモノに刻まれた直近の記憶を視ることができるらしい。
多分、岩橋中将とヤるのを躊躇った俺の様子が見えたんだろう。
やっぱ視えるんだな…危なかった。
後日。
あの件、どうなったかな?と神宮寺の所へ寄ってみた。
「よう、久しぶりっ」
「岸宮様…」
会うなり微妙な顔をする神宮寺。
この前の岩橋中将の件、この男に押し付けた。
男もイケて、淫魔を蹴散らせる『チカラ』を持ってるヤツで、俺の代わりなる、まあまあのイケメン…ていったらコイツが正に適任。
「あれ、オマエの好みじゃなかった?綺麗な顔してたろ?」
しらばっくれて聞いてみる。
神宮寺は面食いだから、岩橋中将のキラキラな感じはタイプだと思ったんだけど。
んーって少し考えてから、「まぁ、岸宮様なら…喋ってもいいか」って呟いた神宮寺は、こっちを向いてニヤッと笑った。
「いや、めっちゃ好みだった。実は…この後、岩橋中将様とお約束をしていて、間も無くいらっしゃる」
マジか。
と、思ったらすぐに、豪華な牛車がやってきた。
中からキラキラした公達…岩橋中将が現れた。
「あら、先客?」
すっかり元気そうな岩橋中将が、俺と神宮寺を見てニコニコ笑う。
「いや、岸宮様は丁度お帰りになる所ですよ。ね?」
!
ニコッと誠実そうな顔で微笑む神宮寺の顔に「帰れ」と書いてあった。
これは…まさかの…じぐいわと俺かよっ。
…しょーがねぇな。
岩橋中将に話しかけた。
「そう、もう帰るとこ。お元気になられた様で何よりです」
岩橋中将が、そこで俺に気がついた。
「あ!岸宮様でしたか。失礼いたしました。
阿部の君からお噂を伺ったことがございます…。この度は、神宮寺殿をご紹介頂き、ありがとうございました」
花の様に微笑む岩橋中将。
その顔にも「邪魔」って書いてあった。
はいはい、じぐいわ。邪魔モノは帰りますよ。
「じゃ、また」
さっき降りたばかりの牛車に再び乗り込み、家路についた。
道中、ふと岩橋中将の口からも出た、阿部の君の言葉を思い出す。
『岩橋中将はタチ…』
でも確か神宮寺も…?
どっちがどっちなんだろう。
ガチで気になる。
今度聞いてみよう。
END